インスペクション(建物状況調査)のタイミング
不動産を扱う者として真面目な話を。
宅建業法の改正とその背景
宅建業法が改正になります。(平成30年4月1日施行)
その改正点の中でも注目されているのが「インスペクションに関する説明の義務化」です。
日本の不動産業界では、新築住宅の供給が多く、中古住宅の流通が少ないことが以前から指摘されてきました。
欧米では不動産取引のうち、8割9割が中古住宅という国も珍しくありません。
平成25年度に総務省が行った住宅・土地統計調査によると、日本ではその割合は15%にも達していません。
今年、新たな調査が実施されます。
おそらくその割合は増えていることとは思いますが、日本では新築に人気が集まる別の背景もあります。
日本の風土と住宅
それは、日本の風土とも関わると考えられます。
日本では地震の起きないところはありません。
関東地方では今後30年以内に「首都直下型地震」や「南海トラフ地震」などの大地震が起きる確率は60~80%とも言われ、住宅には当然それに耐える構造性能が求められます。
マイホームを購入されようとする多くの方が、30年以上お住まいになることをお考えであり、この期間に発生しうるリスクはなるべく小さくしたいと考えるでしょう。
地震に対する耐力を高めるため、建築基準法の改正により構造基準が変更になっています。特に大きな改正は昭和56年の改正ですが、それ以降も木造住宅の構造に関しては改正が行われています。
日本の気候は、四季があり、海に囲まれ、多くのところで夏は高温多湿、冬は低温となります。
また、国土の2/3は山地である日本は平地が少なく、住宅適地が限られているため、住宅が密集して経つ場所が多いことから、騒音や振動を気にしなければいけないところも少なくありません。
台風にもしばしば襲われ、過酷な気象条件にも耐えなければなりません。
湿度が高ければ、カビや害虫、害獣などの影響も受けやすくなりますし、海に近ければ潮風に対する対策も必要になります。
台風などの暴風雨は雨漏りなどのリスクを高めます。
日本ではハウスメーカーをはじめ多くの会社が耐震のための構造への工夫を行っています。
また、環境性能を高めるため、高気密高断熱のサッシや断熱の技術や工法なども日々開発されています。
新しい住宅にはその時点での新たな技術が取り入れられることから、性能的にも優れているモノが多いといえます。
日本人の意識
欧米では、古い住宅も人気があります。
これまで住んでいた人が問題なく住んでいたのだから、問題はないに違いない、という考えの人が多いと聞きます。
一方で、日本人は「新しい、これまで誰も使っていないところに住む方が気持ちがいい」という根強い意識があるように思います。
リノベーションもブームだが…
そんな中、ここ数年「リノベーション」が話題になりました。
新築マンションの価格が高騰している中、中古マンションを購入し自分好みに専有部を全面改修したりでき、改修費用を含めても新築より安く手に入る物件も少なくありませんので、人気が出たのだと思います。
戸建て住宅でも同様に、古い住宅を購入し、全面的にリノベーション、リフォームするケースがあります。
木造住宅の税務上の耐用年数は22年であり、その年数を超えるとほとんど価値を評価されなくなるという実態があります。
実際にはまだまだ住めるのに、です。
最近になって「中古住宅を適正に評価しよう」という機運が高まりつつあります。
中古住宅は、それまでの使われ方、修繕や維持管理の具合で劣化状況や資産価値にも差があるはずであり、そういう部分の調査結果を査定に反映しようとする考えです。
ところが、住宅には見えないところがたくさんあります。
一般の方が、外から見て「良い状態」だと感じたとしても、例えば雨漏り跡をクロスを張り替えることで隠してしまえばわからなくなってしまいます。
売主が個人の場合、瑕疵担保責任を負わない、あるいは短期間しか瑕疵による賠償期間を置かないとする取り決めも可能なため、購入後しばらく経ってから不具合に気づいても賠償されず、さらなる出費を余儀なくされるということもあり得ます。
新築住宅は売り主が業者なので、「住宅の品質確保促進法」(品確法)と「瑕疵担保履行法」により、10年間は「構造耐力上主要な部分」「雨水の侵入を阻止する部分」について不具合があった場合に修補してもらえることになっている。
瑕疵というのは、引き渡すまで売り主もその不具合を知らなかった、というもの。(知っていた場合には「瑕疵」ではなく、完全なものを引き渡さなかったという意味で「債務不履行」となり、瑕疵担保責任とは違う問題)
中古の場合、売却する売主には売却代金をほかの使途に充てることも考えているなど、予期せぬ出費に対応できない場合もあります。
リノベーション済みの物件というのも結構市場に出てますが、物件の状態を確認しにくくなるという点もあるように思います。
インスペクションのタイミング
そこで、売買の対象となる物件に関し、インスペクション(住宅診断)をあらかじめ行うことで
- 物件の状況を把握する
- 不具合の修補を事前に求めたり、修補代金を差し引いて代金を決める。
- 中古住宅瑕疵保証保険に入るなどして万が一に備える
という仕組みを作ることで中古住宅購入の不安を軽減することを目的にしていると考えられます。
つまり、インスペクションの結果を契約条件に盛り込む場合、契約時にインスペクションの説明をしても遅いのです。
改正宅建業法では「依頼者が建物状況調査について認識した上で既存住宅 の取引を行えるよう、宅地建物取引業者は依頼者に対して、建物状況 調査に関して説明を行うことが望ましい。」とされているだけで、説明後相当の期間をおいて契約することは求めていません。
重要事項説明は契約前に行わなければならないのですが、重要事項説明は契約の日に行われることも珍しくありません。ですので、重要事項説明と同時でも遅いでしょう。
重要事項説明時、契約時にインスペクションについて説明されても「じゃあ、インスペクションしてください」となったのでは、契約条件が定まらなくなってしまいます。
購入する人(買い主)が意識を高めることも必要
住宅は時間が経過するほどに傷むものです。(すべての「形あるもの」は傷むものです)
永い間使い続けるためには日ごろからのメンテナンスが欠かせません。
そしてすべての不動産は1点ものです。
同じハウスメーカーや工務店が立てた物件でも全く同じものはありません。
売り主の良識ももちろん重要です。信頼できる施工業者が施工した物件であれば多少は信頼感も増すかもしれません。
購入する人の意識を高めることも併せて重要になってきます。
おそらくは一生に一度の大きな買い物です。
最も大切なのは買主が厳しい目で物件選びをすることではないでしょうか。
購入後もそれなりに手間はかかるもの、という意識も重要だと思います。
戸建て住宅はもちろんですが、マンションの場合には購入者だけではいかんともしがたい共用部(設備も含めて)も確認する必要があるでしょう。
不動産屋さんには遠慮なく聞いてください。
聞かれたことにはこたえなければいけないのが不動産屋の立場ですし、聞かれなくても良いところも悪いところも教えてくれるのが信頼できる良い不動産屋さんだと思います。