インフレと株価と為替の関係
インフレと株価と為替の関係
世界経済が新型コロナウイルスのパンデミックの影響から脱しきれない中、ロシアのウクライナ侵攻によってエネルギーや穀物の需給バランスが崩れ、インフレが進んでいます。
インフレに対応するため、アメリカの中央銀行であるFRBが急速に利上げを進めようとし、欧州中央銀行(ECB)も追随する動きを見せています。一方で、現時点で日銀は低金利政策を維持しており、海外と日本との金利差は拡大しています。
政策金利と物価はリンクします。政策金利は文字通り、政策的に各中央銀行がコントロールしますが、この政策金利と物価のリンクが切れると様々な方面に「ひずみ」が生じます。
政策金利は各金融機関の預貯金の金利や貸出金利にも影響します。
例えば個人にとっては、物価だけが上がり金利が上がらなければ、実質的に資産が目減りすることになります。インフレにより個人の購買力は低下するとともに、将来への不安から買い控えが加速。その結果、ものを販売する企業などの収益力が低下し、景気後退を招きます。
住宅のように額が大きく、多くの人が購入時に借入を伴うようなものは資材価格の高騰によって価格が上がるだけでなく、借入金利の負担も大きくなることからさらに強く影響を受けることになります。
インフレとともに個人の所得も併せて増えていれば、インフレの影響を吸収しますが、現在の日本の所得増を伴わないインフレ進行と政策金利の乖離は、今後の景気に悪影響が出る可能性が高いと考えられます。
グローバル化が進んだ政界経済では、ひとつの国の景気の悪化が世界経済に波及します。
ロシアに対する経済制裁は、ロシアが行っている非人道的な侵略行為を考えれば当然なことと言えますが、あくまでも短期的な戦略として考えるべきものであろうといえます。長期化すれば世界経済全体に悪影響が波及してしまいます。
結果として、昨日のアメリカの代表的な株価指数であるダウ平均は一時1000ドルを超す下げを見せるなど、多くの国の株式市場は弱気な展開。本日の日本の株式市場も一時600円以上下落。終値では357円の下落となりました。これで3日連続の下落となりました。
為替も世界中の通貨がリンクしています。
個人でも、保有する資産を金融機関に預金する際に少しでも安全で利率の良いところを選ぶでしょう。同様に、世界中の資産を持っている人たちがその資産の運用を考えるとき、その投資対象はさまざまですが、日本と海外との金利差が拡大すれば、より金利の高い国への投資を考えます。結果として、日本への投資が減り、経済は更なる低迷を招く可能性があります。
投資先の選定にはあくまでも「安全」が重要です。例えばトルコの政策金利は2022年5月現在14%で5か月間据え置かれていますが、インフレ率は70%近くまで進行しています。トルコリラ建ての利付債券などの投資商品がありますが、利率は8%程度ですので実質的には目減りする一方。このような投資商品は安全とは言えません。
安全という観点でいえば、アメリカや欧州で政策金利が上がれば、相対的に安全とは言えない新興国にとっては、資金調達が困難になります。こうした相対的にリスクの高い国は、より高い政策金利を設定しなければ国やその国の企業は資金が調達できなくなります。
日本でも政策的にコントロールできる低金利政策を頑なに維持しようとすれば景気に悪い影響が出ます。FRBは6月14,15日で開催する米連邦公開市場委員会(FOMC)で、年末時点の政策金利見通しを上方修正するとみられています。
金利の上昇には景気を冷やすリスクもありますが、世界の金利動向の趨勢を考えれば日本の金利政策は転換点を迎えていると言わざるを得ません。今後の日銀の対応が注目されます。